1. ホーム
  2. 【2017年7月6日】大阪医大のヒポクラテス

大阪医大の本部キャンパスの中央、医学部の講義実習棟の外階段横に鈴懸の木と月桂樹の木が並んでいます。前者は大阪医大医学科28期生、後者は29期生の卒業記念植樹です。
これらは当時の学長の山中太木博士が譲り受けた樹の苗をご自宅で育て卒業生達に提供されたものです。その後、彼らは浄財を出し合い石碑を寄贈したのでした。
鈴懸の木(スズカケノキ)は春に目立たぬ花をつけ、晩秋には柄の長い実を生し、その姿が鈴を釣り下げたように見えることからその和名があるといいます。街路樹として身近にあり、フォークソングの歌詞にもよくでてくる「プラタナス」という学名の方が私たちには親しみがあり、若いころの思い出とともに懐かしくも感じます。
ところで、プラタナスの木は時に「ヒポクラテスの木」と呼ばれることがあります。本学の講義実習棟の1本のプラタナスも「ヒポクラテスの木」と呼ばれ、学名とともに株名がついています。「Platanaus orientalis L. OBⅡ-Y3株」、
これが、この木の本名です。では、プラタナスをなぜ「ヒポクラテスの木」と呼ぶかを少し説明したいと思います。
医父ヒポクラテスの父系を遡ると、蛇が巻き付いた杖を手にしていることで有名なギリシャ神話の医術の神、アスクレピウス神に至ると言われ、母系はヘラクレスに遡る言われています。医父として名があるヒポクラテスは、ギリシャのコス島で生まれ、コス島の鈴懸の木の下で弟子たちに医学を教授したと言われており、この鈴懸の木をヒポクラテスの木と呼ぶのだそうです。
日本の医学者たちはコス島のヒポクラテスの木を日本に増殖し、その木陰で医学・医療を語りたいと思ったのでしょう。
幸い、鈴懸の木は比較的増殖力が強く、コス島のヒポクラテスの木の実として日本に輸入され、「ヒポクラテスの木」として全国の医育機関や病院に植樹されています。そして由来ごとに緒方株、日赤株、原田株、日本ギリシャ協会
株、武田株、蒲原株、篠田株とそれぞれ株名が付けられています。
東京大学の緒方富雄先生が、コス島のヒポクラテスの木の苗をDr.ThomasDoxiadisからもらい受け、東京大学の医学部図書館前に植樹されました。その「Platanaus orientalis L. 緒方株」に生った実の数個を本学の山中太木博士が譲り受け、「緒方株B2号」(山中株)として自宅の庭で発芽育苗し、本学の医学科28期生達に「OBⅡ-Y3号」と株名を付け直して贈ったのが先の卒業記念植樹になります。記念の石碑に刻まれた碑文は年月とともに判読が困難になり新たな石碑が建てられています。つまり私たちのヒポクラテスの木はコス島から日本にやってきた「緒方株の2世」なのです。
この植樹に際して、建物までの距離が近すぎることや地下に構築物があることなど様々な困難な面を乗り越え、「君の後輩が私の年齢になる頃にはこの建物は他の場所に建替えられているよ。ヒポクラテスの木は青々とした葉で木陰を作り、その下で皆が医学医療を語っているだろうね。」という趣旨の言葉を山中博士よりうかがった事を今も覚えています。

右手:鈴懸の木(OBⅡ-Y3号)左手:月桂樹
2017.5.23撮影