Ⅰ. 事業計画
1.はじめに
令和6年(2024年)度の世界経済は、前年度に引き続き中近東や東欧における地域戦争・紛争が拡大・長期化し、サプライチェーンの混乱やエネルギー・資源価格の高止まりなどにより、物価の高騰が継続するなど不安定な状況でした。日本経済は、賃上げに伴う所得の増加やインバウンド需要の高まりなどにより回復基調にはありますが、超少子化の想定を超える進行や大規模な自然災害の頻発等の影響を受けるとともに東アジアにおける地政学的なリスクに直面していることもあり、先行き不透明な状況です。一方で、デジタルトランスフォーメーション(DX)や人工知能(AI)等のテクノロジーの急速な発展が、ビジネスから医療、教育にいたるあらゆる分野で、社会生活に大きな変革をもたらしています。
このような環境にあって、本法人では、病院新本館A棟と救命救急センターが順調に稼働し、医師の働き方改革を推進しつつ、地域に求められる医療を提供してきました。また、「医療系総合大学」及び「最優の進学校」として、社会から求められる人材の育成と先進的な研究活動や社会貢献活動の推進を通じて、社会の発展に貢献してきました。
令和7年(2025年)度は、本法人にとって中(長)期事業計画の完成年度となります。これまでの集大成として、その成果・実績と今後の展望、この間に生じた課題を年度計画とリンクさせ、さらに未来に向けた新たな中(長)期事業計画を策定し、本法人の着実な成長、発展を目指す必要があります。
大阪医科薬科大学では、「医療系総合大学」としての強みを生かした医薬看連携プログラムをさらに発展させるとともに、より良い医療人を育成するための教育の質保証活動に取り組みます。研究面では、第1研究館の完成を迎え研究環境の一層の整備・拡充を進めつつ、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)をはじめとする研究所の活動を促進します。高槻中学校・高槻高等学校では、グローバル教育の推進を図りながら、高大接続の強化と併せて進学率を高め、人物育成型の「最優の進学校」を目指します。
大阪医科薬科大学病院では、令和7年(2025年)7月に病院新本館B棟が完成し、グランドオープンします。ICTやAI、ロボティクスを大胆に取り入れ、医療DXにより超スマート医療を推進する大学病院「Super Smart Hospital」の実現と、患者さんや医療従事者に優しい「温かい病院づくり」を同時に推進していきます。
また、これらの取り組みを推進するため、私立学校法の改正に対応した法人の新たなガバナンス体制を構築するとともに、教職員が心身ともに充実して働ける環境を整備します。さらに、法人として、将来的なキャンパス構想の策定、用地整備の推進及び社会貢献・SDGs活動の充実に取り組んでいきます。
「超スマート社会(Society 5.0)」の実現に向けて、社会全体が大きな変革期を迎える中、本法人は教育・研究・医療の実践を通じて「社会の公器」として持続可能な社会の構築に貢献してまいります。
2.主たる事業項目
[1]施設整備、組織、人事、財政・募金推進等に関する取り組み
(1)組織
・私立学校法改正後の新しい機関の運営
①理事会、評議員会、理事評議員選任委員会の運営
②大学設置基準改正への対応
・効率的・効果的な事務組織の構築
①事業所間異動の活発化
②病院事務部の運用体制整備
・学部・学科の編成見直し
新学部の設置検討
・各機構による学部連環体制の推進
機構運営体制の定着化
・各種センター整備
①保健管理センター再編
②図書館の学術情報センター化の推進
(2)人事
・医師の働き方改革の実践
医師の労働時間短縮計画の遂行
・人材の活用による競争力の強化
戦略的な人材確保の実現及び組織内における人材活用の促進
・人事制度の見直し
退職金制度の見直し
・教員組織体制の強化
組織的で効率的な教育研究実施組織体制への取り組み
(3)施設整備
・耐震化率100%計画の達成に向けて
①第1研究館建築
②病院6号館
・その他整備
①木造管理棟、旧保育所等
②薬学部特別演習室整備
・キャンパス整備構想
①東キャンパスの用地整備
②薬学部移転基本計画
③本部キャンパス再編(総合研究棟)
④大学設置基準第34条に基づく空地の確保と整備
・病院新本館B棟建築
B棟開院に向けた建築の推進および院内体制の整備
・病院7号館改修
診療科の一部移設と受付周りの整備
・外構整備
病院本館新築にあわせた外構の整備
・キャンパス全体の省エネルギー活動強化
エネルギー供給系統の整理
(4)財務・募金推進
・外部資金獲得の強化
補助金、受託事業収入等
・財政基盤の強化
収益力の向上
・募金事業の強化
寄付金募集の推進
(5)ICT ・ DX
・情報セキュリティ対策強化
①研修・訓練の充実
②ADサーバの統合
・ICT環境整備と利活用推進
スマートフォン活用
・電子カルテシステム対応
①B棟開設システム準備
②一部部門システム更改
③電子カルテ更改(令和9年(2027年)1月1日)への準備
・教学システム(LMS)更改準備
①各種証明書の電子化
②教学システム(LMS)利用の拡大
・教学サポートシステムの充実
①能力の見える化対応
②学びの多様化対応
(6)リスクマネジメントとコンプライアンス
・リスクマネジメント委員会の活性化
リスク評価とリスク対応の深化
・危機対応
訓練の定期実施
・コンプライアンスの一層の推進
コンプライアンス意識の向上を目指した啓発活動
(7)社会貢献・ SDGs
・法人内外における社会貢献・SDGs活動の活性化
自治体、他大学、民間企業、NPO等との連携・共創の促進
・学生・生徒によるSDGs活動への積極的な参画
職員による社会貢献・SDGs活動に加え、学生・生徒による活動の導入・促進
(8)広 報
・Web広報・プロモーションの推進
①病院新本館グランドオープンに向けた広報
②ブランディングの見直し
③自治体との連携
[2]教育・研究に関する取り組み
(1)大阪医科薬科大学
1)質保証(IR含む)
・教員・学生ポートフォリオの活用
教員・学生ポートフォリオの整備
・質保証の推進
①内部質保証体制の構築と運用
②第三者評価を活用した質保証体制の担保
・IR機能の拡充
①IR機能の内外への発信
②多様性への対応
③研究IRの確立
2)教 学
▶学 部
・教育の充実(大学設置基準改正への対応を含む)
①三つのポリシーに基づいた教学マネジメントの確立と検証
②国家試験:合格率の高位安定
③多職種連携教育(IPE)の推進
④データサイエンス:カリキュラムの編成の高度化と自己点検・評価
⑤FD活動の充実
⑥学部間学生の交流活発化
⑦転学部制度の導入
・学部教育(医学部)
①モデル・コア・カリキュラム:改訂への対応
②リサーチマインドの醸成
③医学部共用試験:CBT、Pre-CC OSCEの公的化対応
④臨床実習の推進
⑤情報関連科目の強化及びガイダンスの充実
⑥入学前教育充実
・学部教育(薬学部)
モデル・コア・カリキュラム:改訂への対応
・学部教育(看護学部)
①モデル・コア・カリキュラム:改訂への対応
②臨地実習の充実
・学生生活支援の充実
①厚生補導の促進
②新入生導入教育
③人間形成に向けた諸策の推進
④経済的支援の充実
⑤修学機会の確保
⑥学生の心身の健康・保健管理の充実
⑦正課外活動(部活動等)充実のための支援
⑧学生の安全管理の整備
・国際化の推進
①国際化に向けたカリキュラム整備
②協定校との交流プログラム促進
③3学部共通科目の充実
④人材交流促進
・看護学部周年記念式典
看護学部周年記念式典実施準備
▶キャリア支援
・薬学生涯学習センターの機能強化
薬剤師リカレント教育の推進とキャリアアップ支援
・薬学キャリアサポートセンターの充実
薬学部生に対するキャリア支援の推進
・人材育成・活性化
看護職リカレント教育の推進とキャリアアップ支援
・看護キャリアサポートセンターの運営強化
①広報強化
②教育研修の質担保
③関係諸機関との連携構築
▶大学院
・体制の強化
①大学院設置基準改正への対応
②学位論文関連データの管理
・大学院教育(医学研究科)
①社会人大学院生の研究の改善
②社会貢献
③リカレント教育の推進とリスキリングの充実
④学生生活・研究支援の充実
・大学院教育(薬学研究科)
①志願者確保の強化
②定員数の適正化
③リカレント教育の推進とリスキリングの充実
④グローバル教育の展開
⑤社会人学生の学びの環境整備
・大学院教育(看護学研究科)
①カリキュラムの点検
②リカレント教育の推進とリスキリングの充実
③志願者確保と広報活動の強化
④学生生活支援の充実
3)DX(教学)〈再掲〉
・教学システム(LMS)更改準備
・その他
4)組織(教学)〈再掲〉
・センター整備
5)入試制度
・入学試験実施
推薦、総合、一般選抜の実施
・入学試験制度改革
入試制度の多様化
・広報戦略
①ブランドイメージ作りの強化
②メディア戦略の充実
6)研 究
・研究推進
①研究環境整備の推進
②研究・学術交流活動の推進
③海外研究者との国際共同研究の推進
④研究施設の共用化対応の推進
⑤研究データマネジメントの推進
・研究支援
①外部資金獲得強化
②研究公正化推進の徹底
③研究者サポート体制の強化
④LDセンターの充実
・研究機関
BNCT共同臨床研究所、小児高次脳機能研究所、薬用植物園の充実
(2) 高槻中学校・高槻高等学校
・教育の充実
①高大接続の強化
②グローバル教育充実
③「最優の進学校」を目指す、進路指導の充実
④徳育教育の推進
⑤SSH第3期事業の実施
[3]診療
(1)超スマート医療の実現DX
①電子化と業務効率の推進
②オンライン化とペーパーレス化の推進
③電子カルテ更改準備〈再掲〉
(2)診療体制の充実
①診療組織の活性化
②外国人対応
③人材活用
(3)経営効率の促進
①収入増加
②支出抑制
③広報強化
④病床運営
⑤連携の推進
(4)患者増加促進
「温かい大学病院づくり」の推進
(5)人材確保・育成・活性化
①看護師の確保と人材育成
②医師の働き方改革の推進
(6)病院新本館B棟建築<再掲>
①B棟開院に向けた建築の推進及び院内体制の整備
(7)BNCTの診療体制充実
①BNCTの強化
②PET診療の増加
[4]地域連携
(1)三島南病院の充実 ~ケアミックス病院としての連携強化〜
①安定的経営体質の構築
②介護事業との連携
(2)健康科学クリニック運営の安定化
①健康科学クリニックでの健診収入の維持と高質な検査人員体制の確保
②新たな健診施設の展開を企画
(3)地域医療連携ネットワークの推進、地域包括ケアシステム推進
①地域連携の基盤構築
②医療・介護の連携強化
(4)ケアプランセンター運営の安定化、教育機関としての役割発揮
①地域連携の基盤構築
②医療・介護の連携強化
③経営の安定化
④教育機関としての役割発揮
(5)デイケア運営の安定化、教育機関としての役割発揮
①経営の安定化
②教育機関としての役割発揮
(6)訪問看護ステーション運営の安定化、教育機関としての役割発揮
①人材確保・人材活用・人材育成
②経営の安定化
③質の高い訪問看護、リハビリの提供
④教育機関としての役割発揮、教育ステーション事業
⑤地域連携強化
⑥地域貢献
Ⅱ.予算編成方針と主な支出
[1]予算編成の基本方針
1)病院新本館関連の医療機器、第1研究館の施設設備の適正投資を図ります。
2) 超スマート医療、業務効率化の実践、及びブランド力・競争力の強化(ICT,DX化,医療機器等)に予算を重点
配分します。
3)上記以外の新規予算の原資の捻出及び物価上昇による支出増の抑制を目的にシーリングを導入します。
〈基本的事項〉
・高度先進医療の推進と病院新本館の高稼働による医療収入の一層の増加を図ります。
・外部資金(各種補助金、設備加算等)の獲得並びに寄付金活動を強化します。
Ⅲ.各部門の予算概要
1.大阪医科薬科大学(前年予算比)
病院新本館B棟及び第1研究館の建設が完了し、建築代金の支払いが発生するため、施設関係支出として11,616百万円を予算計上します。また、病院新本館開院に合わせて導入する高精度放射線治療システム(リニアック)を含む最先端の医療機器の整備などのため、設備関係支出として5,992百万円を予算計上します。これらの支出に備え、施設設備拡充引当特定資産の取崩を2,000百万円増額し、その他の収入として12,651百万円を予算計上します。
[1]教育活動収支
① 学生生徒等納付金
学生数の推移から入学金29百万円、教育充実費36百万円の減額としました。
② 手数料
前年度と同程度としました。
③ 寄付金
71百万円の減額としました。
④ 経常費等補助金
地域医療勤務環境改善事業等の補助金を見込み377百万円の増額としました。
⑤ 付随事業収入
前年度と同程度としました。
⑥ 医療収入
学病院は、489百万円の減額としましたが、令和6年(2024年)度見込より1,660百万円の増額としました。
BNCT共同医療センターは、医療国際貢献プロジェクトの発足により外国人患者の増加を見込み49百万円の増額としました。三島南病院は91百万円の減額、健康科学クリニックは12百万円の増額とし、医療収入全体では516百万円の減額としました。
⑦ 雑収入
51百万円の増額としました。
⑧ 人件費
実績見込をベースに増減要因を勘案し、教員人件費33百万円、職員人件費139百万円の減額としました。
⑨ 教育研究経費
病院新本館B棟及び第1研究館竣工に伴い減価償却額は626百万円の増額、委託費は建物竣工に加えて、実績に合わせて管理経費から一部予算を移管したことにより645百万円の増額としました。
⑩ 管理経費
委託費の一部予算を教育研究経費に移管したことにより284百万円の減額としました。
⑪ 教育活動収支差額
経常費等補助金は増加する一方で、医療収入の減少と減価償却額の増加の影響が大きく、625百万円減少の56百万円となります。
[2] 教育活動外収支及び経常収支差額
運用環境の改善による受取利息・配当金は増加する一方で、借入金の増加による支払利息の増加により、教育活動外収支差額は93百万円の減額としました。結果、経常収支差額は718百万円減少の103百万円の支出超過となります。
[3] 特別収支及び基本金組入前当年度収支差額
特別収支差額は、施設設備補助金が減少し423百万円の減額としました。また、予備費は100百万円の減額とし、基本金組入前当年度収支差額は1,041百万円減少の195百万円となります。
[4] 資金収支
病院新本館B棟及び第1研究館の建築代金支払いのため施設関係支出は3,570百万円増加の11,616百万円、設備関係支出は4,101百万円増加の5,992百万円としました。結果、翌年度繰越支払資金は5,372百万円減少の7,334百万円となります。
2.高槻中学校・高槻高等学校(前年予算比)
[1] 教育活動収支
① 学生生徒等納付金
授業料は大阪府授業料完全無償化の影響により、65百万円の減額としました。ただし、授業料減額相当額は大阪府授業料支援補助金により補填されます。
② 手数料
前年度と同程度としました。
③ 寄付金
2百万円の増額としました。
④ 経常費等補助金
大阪府授業料完全無償化の開始による授業料減額の補填として、授業料支援補助金を67百万円の増額、大阪府経常費補助金を10百万円の増額としました。
⑤ 付随事業収入
前年度と同程度としました。
⑥ 雑収入
前年度と同程度としました。
⑦ 人件費
人員構成から試算し、教員人件費は6百万円の減額、職員人件費は10百万円の増額としました。
⑧ 教育研究経費
就学支援費を6百万円減額、消耗品費を3百万円増額、旅費交通費を3百万円増額としました。
⑨ 管理経費
前年度と同程度としました。
⑩ 教育活動収支差額
経常費等補助金の増加が人件費、教育研究経費の増加を上回ることにより、教育活動収支差額は1百万円増加の84百万円となります。
[2] 教育活動外収支及び経常収支差額
受取利息・配当金収入の増加により教育活動外収支差額は5百万円の増額としました。結果、経常収支差額は6百万円増加の116百万円となります。
[3] 特別収支及び基本金組入前当年度収支差額
特別収支は有価証券の償還差損により6百万円の減額としました。また、予備費は前年と同額の20百万円を計上し、基本金組入前当年度収支差額は90百万円となります。
[4] 資金収支
施設関係支出の増加により、翌年度繰越支払資金は17百万円増加の927百万円となります。
3.法人全体の予算概要
事業活動収支予算の教育活動収入は59,538百万円、教育活動支出は59,398百万円となり、教育活動収支差額は140百万円となります。基本金組入前当年度収支差額は285百万円、基本金組入後の当年度収支差額は7,158百万円の支出超過となる予算編成です。
なお、資金収支予算は、収入の部、支出の部共に83,449百万円となり、翌年度繰越支払資金は8,261百万円を確保します。