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  3. 住んでいる地域により健康寿命に格差
2021年8月30日

大阪医科薬科大学研究支援センター医療統計室の片岡葵、伊藤ゆり准教授は、東北大学中谷友樹教授、京都大学近藤尚己教授、東京医科大学井上茂教授、菊池宏幸講師、広島大学福井敬祐准教授、大阪大学佐藤倫治特任助教との共同研究により、全国1707の市区町村の地理的な社会経済指標による平均寿命 (Life Expectancy: LE) ・健康寿命 (Healthy Life Expectancy: HLE) の格差の存在を本邦で初めて明らかにしました。

研究のポイント

  • 市区町村単位の健康寿命は、地域の社会経済状況が悪いほど短い傾向
  • 最も社会経済状況が悪い地域の健康寿命は、他の地域よりも特に短い
  • 市区町村単位の社会経済指標を用いたため、健康寿命の格差を詳細に把握

概 要

これまでの日本における健康寿命の推計は都道府県単位で行われ、その地域間格差の報告がされてきました。本研究では、健康寿命を市区町村単位で算出して、地域の社会経済状況の違いによる健康寿命の格差を評価しました。市区町村単位の社会経済指標として東北大学中谷友樹教授が作成した地理的剥奪指標 (Areal Deprivation Index: ADI) を使用し、全国の1707の市区町村を「困窮度」に応じて100のグループに分けました。

分析の結果、各グループの平均寿命・健康寿命は、地域の困窮度が高いほど短くなり、最も困窮度の高いグループと最も困窮度の低いグループの間には、男性で平均寿命:2.49年、健康寿命:2.32年、女性で平均寿命:1.22年、健康寿命:0.93年の差がありました。

さらに、最も困窮度が高いグループの平均寿命・健康寿命は、他の地域よりも大幅に短いことが初めてわかりました。これは、都道府県単位に基づくこれまでのデータでは観察できなかったことで、最も困窮度の高い地域には、極端に健康状態が損なわれる何らかの社会的な背景がある可能性が示唆されました。(図1)

この研究成果はThe Lancet Regional Health-Western Pacific誌に7月15日にオンライン公開されました。

研究の背景

平均寿命や健康寿命は、地域の総合的な健康指標として世界中で報告されていますが、その多くは国、州、県などの大きな地理的単位で行われています。しかし、健康状態は地域の社会経済状況や歴史的な背景の影響を受けます。例えば、地域の豊かさや古くからの産業、教育環境、福祉や医療のインフラ、被差別の歴史の有無などとの関係が知られています。
これらの状況を踏まえた健康状態を評価することは、公衆衛生施策の優先順位付けや有効な施策の立案のために重要です。日本では、健康日本21(第ニ次)において、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を目標に掲げています。各市区町村が施策を検討する際に役立つと期待されます。
そこで本研究では、政府が収集・公表している大規模な統計データを利用して、市区町村単位の平均寿命・健康寿命と、市区町村の社会経済的な状況との関係を観察することで、日本における健康寿命の社会経済的な格差の大きさや特徴を明らかにすることを目的としました。

本研究が社会に与える影響

公衆衛生の政策を推進する際には、従来の都道府県単位での健康寿命の算出だけでなく、市区町村単位で健康格差を評価していくこと、そして、健康寿命の地域間格差を、地域の社会経済的な状況の視点で評価することが重要と思われます。困窮度が高く、不健康な状況にある地域に優先的に必要な支援を届けるための施策につながることが期待されます。有効な対策を考えるためにも、今後、地域間の格差を生み出す社会的な背景をさらに検討していくことが必要です。

用語説明

社会経済状況:所得、教育歴、職業上の地位、生活における困窮の程度など。本研究では個人の指標ではなく、各地域の指標として扱っている。
地理的剥奪指標(Areal Deprivation Index: ADI):その地域に居住する集団の困窮度を示す指標。国勢調査で収集されている項目のうち、世帯・職業・住居に関する8項目を用いて算出される。
平均寿命:0歳から何年生きることが出来るかを示す値。生命表から確認可能。
生命表:現在の死亡状況が今後変化しないと仮定したとき、各年齢の人が平均してあと何年生きられるかの期待値を示した表。
健康寿命:ある健康な状態で生活することが期待される平均期間を示す値。人の生涯を健康な期間と不健康な期間にわけ、集団内における健康な期間の平均を求めることで算出される。不健康な期間の算出には、国民生活基礎調査の質問項目を使用し、不健康な期間を「日常生活に制限がある期間」「自分が不健康であると自覚している期間」と捉える方法と、介護保険情報を使用し、要介護認定2-5を「日常生活動作が自立していない期間」と捉える方法の三通りが存在する。本研究では、介護保険情報に基づく方法を採用して、市区町村別の健康寿命を算出した。

研究者のコメント

本研究において、市区町村単位での健康寿命における地理的な社会経済格差の存在を明らかにし、格差が小さいとされていた日本においても、困窮度の高い地域では不健康な状態が顕著であることが明らかになりました。超高齢社会であり保険負担が増加している日本において、公的統計データを利用して、行政の実施単位である市区町村や、各市区町村内の小地域の現状をエビデンスとして示していくことは、健康増進・保健行政施策を講じる上で非常に重要です。そのため、今後も引き続き、地域の実情を反映するような分析を継続し、国や自治体の健康施策に役立つ研究を行っていきます。

原著論文情報

Aoi Kataoka, Keisuke Fukui, Tomoharu Sato, Hiroyuki Kikuchi, Shigeru Inoue, Naoki Kondo, Tomoki Nakaya, Yuri Ito.
Geographical socioeconomic inequalities in healthy life expectancy in Japan, 2010-2014: An ecological study.
The Lancet Regional Health - Western Pacific. 2021;14:100204. https://doi.org/10.1016/j.lanwpc.2021.100204

特記事項

本研究結果は、日本学術振興会・科学研究費補助金20H00040および18H04071の支援を受けて行われました。

本件に関するお問い合わせ

<研究内容について>
大阪医科薬科大学 研究支援センター 
医療統計室 
室長・准教授 伊藤 ゆり 
E-mail:yuri.ito@ompu.ac.jp

<リリースについて>
学校法人 大阪医科薬科大学
総務部 企画・広報課
Email:houjin-koho@ompu.ac.jp