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看護学研究—難しさを発展の機会と捉えて

お知らせ

大阪医科大学看護学部が開学してから今年で8年が経過しました。それまでは大阪医科大学附属看護専門学校が設置されており、じつに83年の歴史を刻んできました。今私の手元には閉校記念誌「83年の航跡」がありますが、中を拝見すると多くの先生方、先輩方のお言葉や写真と共に、その歴史が刻々と描写されています。改めて現在の看護学部があるのは、附属看護専門学校から続く多くの卒業生、教職員、関係者の方々に支えられて
きた上で成り立っているのだと感じます。
そのような歴史を経たうえで、大阪医科大学は看護基礎教育の大学化の必要性から看護学部を設置しました。皆様もご存知の通り看護系大学数は急増しており、この20年間で200以上の大学看護学科が新たに設置されています。本学においては学士課程教育のみならず、2013年に大学院の設置も認可され、現在は多くの大学院生が看護学研究者、高度看護実践専門職を目指し修士課程、博士課程で学んでいます。
このように看護学の世界は短期間で急激な変化を遂げてきたのですが、研究という観点からは他分野に比べ歴史も浅く、未熟な点があることは否めません。研究の成果として「論文」が分かりやすい指標ですが、看護学の論文数(特に日本における英語論文)は相対的に少ない現状があります。点数評価云々という話題もほぼ出ません。しかし未熟な点があることを差し引いたとしても、個人的には看護学分野の論文を発表することは難しいと感じています。私は修士課程、博士課程ともに医学研究科で生理学や分子生物学の研究室に所属し、いわゆる「実験」をしていました。前任の大学で助教をしていた時も、医学と看護学両方にまたがる研究を経験して感じるのは、医学研究とはまた違った看護研究の難しさです。当然ながら人間はそれぞれ違う存在であり、「人間」を対象とする看護の世界でも「個別性」という言葉はとても大事に扱われています。研究成果(論文)は再現性が求められますが、人それぞれの価値観や経験といったものも相まって、看護学としての結果の解釈と、それを論文として著すことに困難さを感じるのです(それを追求していくのが看護学研究なのですが、、)。生理学などの理科系の知識はもちろん、心理学などの
文科系の考え方両方を兼ね備えている必要もありますし、価値観や経験といった個別的な人の歴史を理解したうえで研究結果をまとめていく柔軟性も必要でしょう。私は看護の世界で研究を進め多様な能力が求められるなかで、成果を著す困難さがあるからこそ、より看護学の奥深さや面白さを感じるようになりました。
私は認知症の研究をしていますが、それこそ認知症の人を理解することはとても困難を伴います。認知症の病態はベースにありますが、認知症の人にはそれぞれの歴史があり、それによって症状が違うために対応が全て異なるからです。認知症に対する医学研究も進んでいますが、現在のところ医学的には治癒が難しいからこそ、「ケア」の力が求められています。未熟ながらも知的好奇心を持つことを忘れず、その求めに応えるべく認知症看護研究の発展に少しでも寄与できればと考えています。

大阪医科大学看護学部 久保田正和