1. ホーム
  2. 広報
  3. 心・血管修復パッチ「シンフォリウム」が製造販売承認を取得
2023年7月12日
大阪医科薬科大学
福井経編興業株式会社
帝 人 株 式 会 社
帝人メディカルテクノロジー株式会社

大阪医科薬科大学(所在地:大阪府高槻市)、福井経編興業株式会社(本社:福井県福井市)、帝人株式会社(本社:大阪市北区)が先天性心疾患の患者さんの課題解決のため共同開発を進めてきた心・血管修復パッチ「OFT-G1(開発コード)」が、本日、厚生労働省より製造販売承認を取得しました。今後、製造販売を担う帝人メディカルテクノロジー株式会社(本社:大阪市北区)が中心となり、販売名「シンフォリウム」(以下、本製品)として2023年度中に上市することを目指します。

シンフォリウム

1.背景・経緯

  1. 先天性心疾患の治療では、パッチ状の医療材料を用いて狭窄部や欠損部の血液循環を正常化する手術が行われます。患者さんが新生児や幼児のうちに手術を行うことが多く、子供たちが成長していく中で、埋植したパッチが異物反応を受けて劣化したり、成長に伴ったサイズ増大がないことによって手術部の狭窄が発生したりします。これにより、再手術によってパッチを交換する必要が生じることは少なくなく、患者さんや医療者を悩ませていました。
  2. この課題に対し、大阪医科薬科大学の根本 慎太郎 教授が“自分の組織に置き換わることで患者さんの成長に伴うサイズ増大に対応できるパッチ”のアイデアを打ち出し、福井経編興業が伝統的な繊維産業の高度な経編の技術によって、特別な編み地構造に細胞を取り込み伸張可能な心・血管修復パッチの試作品を考案し、完成させました。そこに、医薬品や医療機器の研究開発および製造販売を手がける帝人が、製品化に向けた設計開発や薬事申請などを担う役割として参画し、2014年から3者による共同開発を行ってきました。
  3. 2018年4月に先駆的医薬品等指定制度(旧:先駆け審査指定制度)(*)に指定され、2019年から開始した臨床試験が2022年に完了し、主要評価項目の達成が確認されたことで、2023年1月に製造販売を担う帝人メディカルテクノロジーが厚生労働省に製造販売承認を申請し、このたび、承認の取得に至りました。
  4. 本製品は先天性心疾患と闘う患者さんの悩みをアカデミアが拾い上げ、中小企業と大企業がそれぞれの技術力とノウハウを持ち寄り、強い協力関係によって製品化に至った、我が国でも数少ない成功例と言えます。


(*)患者に世界で最先端の医療機器等を最も早く提供することを目指し、一定の要件を満たす画期的な医療機器等について、薬事承認に関わる相談・審査における優先的な取り扱いを行い、迅速な実用化を図る制度。優先審査における申請から承認までの総審査期間の目標は6カ月とされている。

2.心・血管修復パッチ「シンフォリウム」について

  1. 本製品は、吸収性の糸と非吸収性の糸による特殊な構造のニットを吸収性の架橋ゼラチン膜で覆い、一体化させたシートです。手術によって心臓や血管に縫着された後に、まずゼラチン膜が、次に吸収性の糸が徐々に分解され、自己の組織が本製品を含むように形成されます。この自己組織化は、従来の製品で見られた異物反応や石灰化などの問題が発生しにくいという特長があり、手術材料に起因する再手術リスクの低減が期待されます。2019年5月に開始された臨床試験においては、本製品によると考えられる不具合や再手術は、現在まで発生していません。
  2. 本製品の開発においては「先駆け審査指定制度」に加え、2014年からは経済産業省、2017年度からは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による合計6年間の医工連携事業化推進事業(補助事業課題名「術後のQOLを改善させる心・血管修復シートの事業化」)に選定されるなど、国からの多くの支援を得て実用化の道を進んできました。

3.開発メンバーからのコメント

【大阪医科薬科大学 胸部外科学教室 教授 根本 慎太郎】

何度も挫けそうになる開発メンバーを鼓舞し続け、学会や規制当局の協力を得ながらここまで来ました。しかし、まだまだ乗り越える課題は山積しています。やっと「始まりの終わり」に来ました。患者さんに選ばれるパッチに向け、さらにメンバーと進んで参ります。

【福井経編興業株式会社 代表取締役社長 髙木 義秀】

長年培ってきた編み技術を駆使し、開発メンバーの皆さまとワンチームで作り上げた「シンフォリウム」が先天性心疾患の患者さんやご家族の再手術の負担を減らすことに役立つことを期待しています。クリーンルームの設置や、医療機器の品質マネジメントシステムの認証を取得し、品質管理を徹底して行っています。来年創立80周年を迎える当社が、新しいページとして、この「シンフォリウム」を通じて子供たちの未来に貢献ができることを嬉しく思います。「シンフォリウム」に留まることなく、安心安全なものづくりで今後も様々な開発に取り組んでいきます。

【帝人株式会社 再生医療・埋込医療機器部門長 中野 貴之】

先天性心疾患の患者さんやご家族の再手術による負担を減らしたいという希望を、多くの医師から聞いていました。多くの関係者と連携・協業を通して作り上げた「シンフォリウム」が、患者さんやご家族のQOL向上に役立つことを心より期待しています。また、メーカーとして、この日本発の新たな医療材料を世界に普及させることや、この素材を活かした別の医療機器の開発にも今後取り組んでいきます。

4.今後の展開

今後、帝人メディカルテクノロジーを中心に、いち早い上市、すなわち「患者さんに届ける」ための準備を加速していきます。
市販後には、我が国での本製品を用いた手術症例の集積と解析を継続し、長期の有効性と安全性の確立を図ります。そして、世界でも類を見ない技術を用いた本製品の海外への事業展開、加えてその要素技術を応用する新製品ラインアップの拡充に取り組んでいきます。

当件に関するお問合せ先

帝 人 株 式 会 社    広報・IR部 TEL:(03)3506-4055
福井経編興業株式会社 総 務 管 理 課 TEL:(0776)54-3602
大阪医科薬科大学 医学研究支援センター産学官連携推進室 TEL:(072)684-7141