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  3. 全国の統合失調症治療薬クロザピン服用患者のデータから、 重篤な副作用の背景因子を突き止めました
2021年7月20日

大阪医科薬科大学 医学部 神経精神医学教室の金沢徹文教授、豐田勝孝助教、今津伸一助教と大阪医科薬科大学病院 薬剤部の畑武生主任の研究グループは、日本の9000人以上のクロザピンを服用している難治性統合失調症患者のナショナルデータベースから得られた情報を基に、副作用の発生を予測する背景因子を同定しました。

概 要

クロザピンは全世界で治療抵抗性統合失調症の治療薬として承認されており、日本では2009年から使用されています。しかし、治療薬として使用している患者さんはまだまだ限られています。原因として重篤な副作用が一定数発生し、それに対する懸念が強いため処方数が伸び悩んでいる現状があります。
大阪医科薬科大学医学部神経精神医学教室および同大学病院薬剤部では、東京女子医科大学や日本神経精神薬理学会などの協力を得て、日本でクロザピンが使用されている全ての患者さん9000人以上のデータを解析し、白血球減少症や心疾患、高血糖、便秘といった副作用の詳しいプロファイル、すなわちどのような量や投与期間で起こりやすいのかを明らかにしました。特に心筋炎といった死亡リスクとなる心疾患は3.9週(2.9-9.4)と早期に発生し、またこれも中断に至る主要な原因となる白血球減少症は全患者の5%(411名)に発生し、14.3週(7.3-45.6)を中央値とする時期に、200mg(100-350)を服用する頃に多く見られました。さらに、高血糖による中断は0.7%に発生しており、比較的少量の投与量(125mg, 50-200)でも血糖上昇を認めました。この研究の結果から特定の副作用の発生をあらかじめ予測することで、中断に至る症例をできるだけ少なくすることとなり、ひいてはこの薬剤の恩恵を受けられる患者さんが増えることになるものと考えられました。

研究の背景

統合失調症は思春期後半から青年期にかけて幻覚・妄想症状を発症する精神疾患で、全人口の約0.7%に罹患することが知られています。一般的には抗精神病薬による薬物療法で症状の改善をはかり、薬物療法が奏功すると、劇的に良好な社会生活を送ることができます。長期に渡って治療薬を服用することで病状の進行を予防しますが、これらの薬物療法に反応しない、もしくは副作用により十分な量を使用できない場合があります。このような場合は治療抵抗性統合失調症と呼ばれ、統合失調症の中で約20~30%にみられます。治療抵抗性統合失調症に対する治療で、クロザピンは効果を示す唯一の薬剤です。クロザピンは他の抗精神病薬に比べて明らかに有効性が高いことが示されていますが、処方数は世界的に伸び悩んでいる現状があります。理由としては、一部の患者さんに無顆粒球症や心臓障害といった致死的な副作用が発生するため、これらに対して医師が強い懸念を示していることが挙げられます。本邦では2009年に治療抵抗性統合失調症に対する治療薬としてクロザピンが承認され、2009年7月から2020年1月までに9635例に処方されています。すでにこれらのデータ解析から、最近になり処方数の増える割合が高くなってきていること( A descriptive study of 10-year clozapine use from the nationwide database in Japan. Toyoda他、Psychiatry Res. 2021 Mar;297)、40歳以前に開始された方が処方中断に至りにくい、すなわち長く続けられる可能性のあることなどを報告してきました(Clozapine Is Better Tolerated in Younger Patients: Risk Factors for Discontinuation from a Nationwide Database in Japan. Toyoda他、Psychiatry Investig. 2021 Feb;18(2):101-109.)。今回の結果はその続報に当たります。

本研究が社会に与える影響

治療抵抗性統合失調症は重篤な精神疾患の一つで、世界的に見てもクロザピンが唯一の治療薬として認められている。本研究を含めた一連の解析結果から本邦における同薬剤の使用実績や対象患者、さらには副作用の発生時期や危険な量などさまざまな実証的な解析結果が明らかとなっている。今後は重篤な副作用の発生を押さえながら、より多くの患者さんへの使用が望まれる。

用語説明

統合失調症: 約0.7%が罹患する代表的な精神疾患の一つで、思春期後期から青年期にかけて幻視・幻聴といった幻覚や妄想などを初期症状として発症する病気である。
クロザピン(クロザリル® 25mg, 100mg、ノバルティスファーマ社): 難治性統合失調症に対し使用される代表的な抗精神病薬で、効果が高い一方で白血球などが少なくなる顆粒球減少症や無顆粒球症といった重篤な副作用が発生する危険性がある。さらに心筋炎や糖尿病などの副作用が発生しやすい薬剤である。
採血間隔: 日本ではクロザピンの導入にともない原則18週間の入院が必要となっている。また投与後26週間は週1回の、それ以降も2週に1回の採血が義務付けられてきた。なお本年6月から52週以降は4週に1回の採血間隔と要件が緩和された。

研究者のコメント

まだまだ難治性統合失調症の患者さんに対しクロザピンの恩恵が行き渡っていないのが実情だと思います。大阪医科薬科大学でもできるだけ近隣病院から依頼を受けて、治療の導入を進めてきました。一連のナショナルデータ解析により明らかになった科学的事実を基にして、さらに安全で有効性の高いクロザピンの使用が推進されればと考えています。

特記事項

今回の研究結果論文はJournal of Psychiatric Research(141号, September 2021)に掲載されています。
詳細はhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34192602をご参照ください。

本件に関するお問い合わせ

<研究内容について>
大阪医科薬科大学 
医学部 神経精神医学教室
教授 金沢 徹文(かなざわ てつふみ)
 Email:tk@ompu.ac.jp
 TEL: 072-683-1221(代表)内線2477

<リリースについて>
学校法人 大阪医科薬科大学
総務部 企画・広報課
Email:houjin-koho@ompu.ac.jp