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  3. 既存のパーキンソン病症状改善薬に パーキンソン病の進行抑制につながる作用を発見
2021年9月14日

大阪医科薬科大学 医学部 内科学Ⅳ教室 脳神経内科の中村善胤大学院生・荒若繁樹教授、山形大学医学部第3内科の佐藤裕康助教・加藤丈夫名誉教授、エフピー株式会社研究部(本社:大阪府)からなる共同研究グループは、既存のモノアミンオキシダーゼ-B阻害薬に、パーキンソン病の原因となるαシヌクレインタンパク質を細胞外に排出する作用があることを発見しました。パーキンソン病の根本的な進行抑制治療に向けた応用が期待されます。

研究のポイント

  • モノアミンオキシダーゼ-B阻害薬は、ドパミンを分解する酵素を阻害することによりパーキンソン病の症状を改善する薬剤として使われています。
  • 今回私たちは、このモノアミンオキシダーゼ-B阻害薬にパーキンソン病の原因となるαシヌクレインと呼ばれるタンパク質を細胞外に排出させる作用があることを培養細胞の実験から発見しました。
  • そのメカニズムとして、これまで知られていなかったABCトランスポーターを介する経路でαシヌクレインを細胞外に排出することを明らかにしました。
  • さらに、モノアミンオキシダーゼ-B阻害薬は、ラットにおいてαシヌクレインの脳内異常蓄積を防ぎ、ドパミン神経細胞の脱落を遅延させるといった神経細胞を保護する効果があることを見出しました。
  • モノアミンオキシダーゼ-B阻害薬は、パーキンソン病の原因となるタンパク質を細胞外へ排出させるユニークな作用で、パーキンソン病の根本的治療に新しい手段を提供する可能性があります。

概 要

現在おこなわれているパーキンソン病の治療は、脳内で不足しているドパミンをレボドパと呼ばれる薬剤として外から補充して症状の緩和を図ることが主体です。加えて、モノアミンオキシダーゼ-B阻害薬のようにドパミンの分解を抑えて、レボドパの効果を底上げする薬剤が使用されます。様々な薬剤の登場によって、日常生活を自立して送れる時間が延びています。しかし、これらの治療法は、パーキンソン病の原因を根本的に取り除くものではありません。年数が経過すると自立した生活が難しくなり、寝たきりになる方も現れてきます。パーキンソン病の進行を抑える治療の開発が喫緊の課題となっています。根本的治療には、発症・進行の原因となる異常を取り除くことが必要です。しかし、このような作用を有する薬剤は未だ開発段階で、その効果は不明です。

図1

大阪医科薬科大学医学部脳神経内科の中村善胤大学院生・荒若繁樹教授、山形大学医学部第3内科の佐藤裕康助教・加藤丈夫名誉教授、エフピー株式会社研究部(本社:大阪府)からなる共同研究グループは、既存のパーキンソン病症状改善薬であるモノアミンオキシダーゼ-B阻害薬に神経細胞を保護する働きがないか、培養細胞とラットを用いて調べました。その結果、この薬剤にはパーキンソン病の原因と考えられる脳に異常に蓄積するαシヌクレインと呼ばれるタンパク質を細胞外に排出させる作用があることを発見しました。
そのメカニズムとして、ABCトランスポーターと呼ばれる分子を介する経路によってαシヌクレインが排出されることを新たに見出しました。さらに、αシヌクレインを過剰に発現するラットにモノアミンオキシダーゼ-B阻害薬を投与すると、αシヌクレインの脳内異常蓄積が抑えられ、ドパミン神経細胞の脱落が遅延し、運動機能の低下が抑えられました。これらの結果は、モノアミンオキシダーゼ-B阻害薬が、本来の作用以外に原因となるタンパク質を細胞から排出するという全く新しい機序でパーキンソン病の進行抑制治療に応用できる可能性を示しています。

研究の背景

パーキンソン病の症状は、脳の黒質線条体ドパミン神経細胞が脱落して脳内のドパミン濃度が減少することによって引き起こされます。αシヌクレインと呼ばれるタンパク質が異常に折りたたまれ、細胞内に蓄積することによって、ドパミン神経細胞はダメージを受けて脱落すると考えられています。さらに、この異常に折りたたまれたαシヌクレインが、細胞から細胞に伝播することによって、神経細胞のダメージが拡がり、症状が進行すると考えられています。現在、パーキンソン病の根本的な治療法として、αシヌクレインの異常蓄積を抑制する方法が研究されています。例えば、開発が行われているαシヌクレインに対するヒト型モノクローナル抗体は、直接脳内に入った抗体が細胞間隙にあるαシヌクレインを捕捉して取り除こうとするものであります。しかし、このような新規治療の登場には、安全性と効果を確認するための長い年数を必要とします。一方で、既存の薬剤は安全性が確立している利点がありますが、必ずしも作用と効果が充分に明らかになっているわけでありません。
モノアミンオキシダーゼ-B阻害薬は、ドパミンを分解する酵素を阻害する薬剤です。この薬剤は、多様な作用をもつ可能性が実験的に提起されてきました。私たち研究グループは、モノアミンオキシダーゼ-B阻害薬がこれまで調べられていなかったαシヌクレインの異常蓄積に対して何らかの作用を発揮しないか調べました。その結果、αシヌクレインを細胞外に排出する作用があることを発見しました。排出メカニズムを探索する中で、ABCトランスポーターを介する新しい排出経路を発見しました。この効果をラットで検証した結果、モノアミンオキシダーゼ-B阻害薬は、αシヌクレインの脳内異常蓄積を抑制することを見出しました。これらの発見は、長年使用されてきた薬剤が、これまで全く治療標的として考えられていなかったαシヌクレインの細胞外排出に作用する働きを持ち、根本的な進行抑制療法に繋がる可能性を持っていることを示すものと考えます。

本研究が社会に与える影響

新規薬剤の開発には、効果と安全性の検証に多大な労力・費用・時間を必要とします。既存薬は安全性が確立しているという大きなメリットがあります。また、パーキンソン病は症状が出現する前より、神経細胞内にαシヌクレインが蓄積することがわかっています。より早期にモノアミンオキシダーゼ-B阻害薬を投与することで、神経細胞内からαシヌクレインの排出を促して、パーキンソン病の進行を抑制する可能性が考えられます。日常臨床で使用されている薬剤によるパーキンソン病の根本的治療として、迅速な臨床への応用が期待されます。

用語説明

パーキンソン病:脳の黒質線条体にあるドパミン神経細胞が脱落することによって、脳内ドパミンが不足することで、動作が鈍くなる、手足が震える病気です。現在行われている治療は、ドパミンを薬剤で補うもので、根本的に原因を除去している訳ではありません。

αシヌクレイン:パーキンソン病では、異常に折りたたまれたαシヌクレインというタンパク質が細胞内に蓄積して神経細胞死が引き起こされると考えられています。さらに、異常に折りたたまれたαシヌクレインが周囲の神経細胞に伝播していくことで病状が進行すると考えられています。

モノアミンオキシダーゼ-B:ドパミンを分解する酵素です。この酵素の阻害薬は、脳内ドパミン濃度を上昇させてパーキンソン病の症状を改善させます。本邦では1998年より臨床に使用され、安全性に関するデータが蓄積されています。

研究者のコメント

この研究の意義は、第1に既存薬であるモノアミンオキシダーゼ-B阻害薬に、進行抑制治療に結び付く作用があることを発見したことです。第2に、この薬剤が、パーキンソン病の原因と考えられているαシヌクレインタンパク質を細胞外に排除するという全く新しい作用機序を有していることを発見したことです。第3に、モノアミンオキシダーゼ-B阻害薬は、長年臨床で使用され安全性が確立した薬剤であることから、臨床への迅速な応用が期待できる点です。多くのドパミン神経細胞にαシヌクレインが蓄積してしまう前にこの薬剤を投与すれば、神経を保護する効果が得られる可能性があります。パーキンソン病は診断された時点で約半数のドパミン神経細胞が脱落していることから、モノアミンオキシダーゼ-B阻害薬をより早期の段階から投与することによって、パーキンソン病の進行を遅らせることが可能になるかもしれません。長年使用されてきた薬剤による進行抑制治療への期待が、本研究内容の最もアピールしたい点です。

特記事項

本研究内容は、北米神経科学学会の公式学会誌であるJournal of Neuroscienceにおいて、9月1日発刊号に掲載されました。

論文タイトル:Monoamine oxidase-B inhibition facilitates α-synuclein secretion in vitro and delays its aggregation in rAAV-based rat models of Parkinson’s disease
著者:Yoshitsugu Nakamura, Shigeki Arawaka, Hiroyasu Sato, Asuka Sasaki, Taro Shigekiyo, Kazue Takahata, Hiroko Tsunekawa and Takeo Kato
中村善胤(大阪医科薬科大学 医学部 内科学Ⅳ教室 脳神経内科 大学院生)、荒若繁樹(大阪医科薬科大学 医学部 内科学Ⅳ教室 脳神経内科 教授・診療科長)、佐藤裕康(山形大学医学部第3内科助教)、佐々木飛翔(山形大学医学部第3内科大学院生)、重清太郎(大阪医科薬科大学 医学部 内科学Ⅳ教室 非常勤医師)、高畑和惠(エフピー株式会社研究員)、恒川浩子(エフピー株式会社研究員)、加藤丈夫(山形大学医学部名誉教授)
発表雑誌: Journal of Neuroscience
DOI: https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.0476-21.2021

本件に関するお問い合わせ

<研究内容について>
大阪医科薬科大学 医学部 内科学Ⅳ教室
脳神経内科
教授・科長 荒若 繁樹 
E-mail:shigeki.arawaka@ompu.ac.jp
TEL :072-684-6448(直通)
FAX :072-684-7087

<リリースについて>
学校法人 大阪医科薬科大学
総務部 企画・広報課
Email:houjin-koho@ompu.ac.jp