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  3. 母親の職業の種類によって死産リスクに違いがあることが明らかに
2021年10月14日

大阪医科薬科大学 医学部 社会・行動科学教室の鈴木有佳助教と本庄かおり教授は、東北学院大学 教養学部 人間科学科の仙田幸子教授との共同研究により、死産リスクの高い職業が存在することを明らかにしました。

研究のポイント

  • 国の全数調査データを用いて母親の職種と出産時ならびに出生後の児の死亡との関連について明らかにした初めての疫学研究です。
  • 母親の職業の種類によって死産リスクに違いがあり、特にサービス職では死産リスクが高いことを明らかにしました。
  • 母親の職業の種類と出生後の児の死亡リスクには違いが認められませんでした。

概 要

5年度分の人口動態職業・産業調査 (出生票、死産票)ならびに人口動態調査(死亡票)の調査票情報を用い、出産時の母親の職種による(1)妊娠12週以降出生までの児の死亡(自然死産)リスク、 (2)出生から出生1年後までの児の死亡(新生児・乳児死亡)リスクについて解析しました。
その結果、母親の職業の種類により死産リスクに差が認められました。出産時の母親の職種が管理・ 専門・技術と比較し、事務、販売、サービス、肉体労働では死産リスクが統計的に有意に高く、無職では有意に低いことが分かりました。特に、死産リスクが最も高いのはサービス職で、管理・専門・ 技術職の母親に比べて死産を経験した人の割合が 1.76 倍高いことが明らかになりました。

一方、新生児・乳児死亡リスクには有 意な差が見られませんでした。さらに、有職者における死産の人口寄与危険割合(有職者における死産全体のう ち、各職種に起因する死産の割合)を計算した結果、サービス職に起因する死産の割合はすべての職業の中で最も高いことが分かりました。また、事務職の死産リスクは管理・専門・技術職 の次に低いことを明らかにしましたが、事務職に従事する人の割合が多いため、人口寄与危険割合はサービス職に次いで高い値を示しました。

本研究は、国の全数調査データ(約530万人)を用いて母親の職業の種類と出産時ならびに出生後の児の死亡との関連について明らかにした日本で初めての疫学研究です。しかし、説明変数として用いた出産時の母親の職種は、妊娠中の職業とは一致しない可能性があります。妊娠の経過が出産時の母親の職業を左右した可能性を否定できないことには留意が必要です。

本研究により、死産リスクの高い職業が存在することを明らかにしました。本研究の知見を踏まえ て、母親の職業と妊娠・出産や児の健康についての研究が今後進展することを期待します。

なお、この研究成果は日本公衆衛生雑誌第68巻第10号において公開されました。

研究の背景

近年では、第一子出産前後の就業継続率は5割を超え、出産を経ても就業を継続する女性の割合が上昇しています。一方で、職業は、立ち仕事や、重量物の運搬、物質への曝露、疲労等が母体への負担となり、児の生存をはじめとした妊娠の結果に影響を与える可能性があることが報告されています。

欧米では、母親の特定の職業が児の高い死亡リスクと相関することが明らかになりつつあります。 しかし、日本においては、母親の職種と出産後1年時までの児の死亡の関連を検討した疫学研究はありませんでした。

日本の死産率ならびに新生児・乳児死亡率は年々減少を続けており、国際的にも最低レベルです。し かし、人口減少局面を迎えた日本において、児の命を守ることは人口学の面からも重要です。母親の職種による児の死亡リスク要因が明らかになれば、妊婦に対する職場環境の改善や妊婦検診時のアドバイスによりリスクを回避できる可能性が考えられます。
したがって、近年の日本社会において、母親の就業の有無に加えて、職業の種類(職種)と妊娠の結 果の関連について検討することは重要であると考えました。

本研究が社会に与える影響

本研究により、職業の種類によって死産リスクに違いがあり、死産リスクの高い職業が存在することを明らかにしました。具体的なリスクの原因やその改善法を探る研究はこれからの課題ですが、本研究の知見はそうした職業的リスクの探索において重要な手掛かりを提供します。本研究の結果により、職場における母性保護の促進に向けた努力の必要性、ならびに妊婦検診時の母親の職業を考慮したアドバイスの可能性が示唆されました。

用語説明

  • 本研究における死産とは、全死産から人工死産を除いた自然死産のことを指します。
  • 人口動態調査におけるサービス職には、以下の職業が含まれます:
 ・ 家庭生活支援サービス職業従事者(家政婦(夫)、家事手伝い、ホームヘルパー等)
 ・ 生活衛生サービス職業従事者(理容師、美容師、クリーニング師、浴場従事者、葬儀屋等)
 ・ 飲食物調理従事者(調理師、コック、板前、バーテンダー等)
 ・ 接客・給仕職業従事者(ウエイトレス・ウエイター、スチュワーデス〔客室乗務員〕、ホステス・ホスト、旅館主・支配人・番頭等)
 ・ 居住施設・ビル等管理人(アパート・寮管理人、駐車場管理人等)
 ・ 旅行・観光案内人
 ・ 介護職員(病院、老人保健施設、老人ホーム、身体障害者療護施設)
 ・ 老人ホーム介護助手
 ・ 介護福祉士等

研究者のコメント

日本は国際的に見ても自然死産や新生児・乳児死亡が少ないですが、国の基幹統計データを5年度分 リンケージすることで、日本でも母親の職業の種類によって死産リスクが異なることが明らかになり ました。本研究で得られた知見ならびに今後の研究発展により、日本における死産リスクをさらに下げることに寄与できたら幸いです。

論文情報

鈴木有佳、仙田幸子、本庄かおり
母親の職種と出産後 1 年時までの子の死亡の関連:人口動態職業・産業別調査データより
日本公衆衛生雑誌. 2021;10:669–76.  https://doi.org/10.11236/jph.20-151

https://doi.org/10.11236/jph.20-151

本件に関するお問い合わせ

<研究内容について>
大阪医科薬科大学 医学部
社会・行動科学教室
教授 本庄かおり
E-mail:khonjo@ompu.ac.jp

<リリースについて>
学校法人 大阪医科薬科大学
総務部 企画・広報課
Email:houjin-koho@ompu.ac.jp