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  3. リソソーム異常が希少眼疾患の原因
2026年7月24日
大阪医科薬科大学
京都大学

概要

京都大学大学院医学研究科客員研究員・大阪医科薬科大学眼科学教室特務教授 池田華子、京都大学大学院医学研究科 井上由美研究員らの研究グループは、慶應義塾大学薬学部教授・理化学研究所生命医科学研究センターチームディレクター 有田誠、および京都大学iPS細胞研究所(CiRA)との共同研究にて、希少な遺伝性網膜疾患であるMalattia Leventinese(MAL)の病態を解明し、新たな治療法につながる可能性を示しました。MALは思春期頃から網膜にドルーゼンと呼ばれる沈着物が生じ、進行すると視力低下を来す疾患です。原因となるEFEMP1遺伝子変異は知られていましたが、なぜ網膜が障害されるのかは十分に解明されていませんでした。本研究では、患者由来iPS細胞から作製した網膜色素上皮細胞を用いて病態を再現し、変異タンパク質Fibulin-3の蓄積に加え、細胞内の不要物を分解する「リソソーム」の量と機能が低下していることを発見しました。この異常により、ApoEや補体成分などを含むドルーゼン様沈着物が形成され、細胞死や組織障害が進行することが明らかになりました。さらに、リソソーム機能を活性化するトレハロースを投与すると、リソソーム機能が回復し、沈着物の形成や細胞死が抑制されました。これらの成果は、リソソーム機能障害がMALの主要な病因であることを示すとともに、MALや加齢黄斑変性などドルーゼンを伴う疾患に対する新たな治療戦略につながる可能性を示しています。
本研究成果は、2026年7月22日正午(米国東部夏時間)に国際学術誌「JCI Insight」にオンライン掲載されました。
 
作成:池田華子、生成AI:OpenAI ChatGPT(GPT-5.5 Image Generation)

1.背景

Malattia Leventinese(MAL)は、EFEMP1遺伝子変異によって発症する希少な遺伝性網膜疾患です。患者では思春期頃から網膜下にドルーゼンと呼ばれる沈着物が形成され、進行すると網膜が変性し、視力低下を来します。MALは比較的まれな疾患ですが、加齢黄斑変性と共通してドルーゼン形成を特徴とするため、その病態を理解することはより患者数の多い網膜疾患の理解にもつながると考えられています。
これまで、変異EFEMP1遺伝子から産生されるFibulin-3タンパク質が細胞内に蓄積することは知られていましたが、どのような仕組みでドルーゼン形成や網膜細胞障害が生じるのかは十分に解明されていませんでした。また、MALに対する根本的な治療法は確立されておらず、新たな治療標的の発見が求められていました。
そこで本研究では、患者由来iPS細胞を用いて病態を再現し、MALの発症機序の解明と新規治療法の探索を行いました。

2.研究手法・成果

私たちは、EFEMP1異常をもつMAL患者さんからiPS細胞を樹立し、5~6か月かけてiPS細胞から網膜色素上皮細胞へと誘導しました。興味深いことに、患者さん由来の網膜色素上皮細胞では、健常人由来の細胞に比べて、Fibulin-3に加え、ApoEなどドルーゼンの構成成分が細胞内に蓄積していることが明らかになりました。電子顕微鏡で細胞内の構造を詳細に確認すると、患者さん由来の網膜色素上皮細胞ではドルーゼンのもととなる異常な線維状構造や脂質の蓄積が認められました。また、小胞体ストレスの亢進や細胞死の増加も認められました。
さらに長期間培養を行ったところ、補体成分やコラーゲンを含むドルーゼン様沈着物が細胞下に形成され、生体内でみられる病変を再現することに成功しました。詳細な解析の結果、細胞内の不要物を分解・再利用するリソソームの量と機能が低下していることが判明しました。
そこで、リソソーム機能を活性化することが知られているトレハロースを投与したところ、リソソーム機能の回復とともに、ドルーゼン様沈着物の形成や細胞死が抑制されました。
本研究は、リソソーム機能障害がMALの病態形成に重要な役割を果たしていることを初めて示すとともに、リソソーム機能の回復が新たな治療戦略となる可能性を示したものです。

3.波及効果、今後の予定

本研究により、リソソーム機能障害がMALの病態形成において中心的な役割を果たすことが明らかになりました。また、リソソーム機能を回復させることでドルーゼン様沈着物や細胞死が抑制できることから、MALに対する新たな治療法開発につながる可能性が示されました。
MALは希少疾患ですが、ドルーゼン形成や補体活性化などの病態には加齢黄斑変性(AMD)との共通点があります。そのため、本研究で得られた知見はMALのみならず、AMDをはじめとするドルーゼンを伴う網膜疾患の病態解明や創薬研究にも貢献することが期待されます。
一方で、本研究は患者由来iPS細胞から作製した網膜色素上皮細胞を用いた解析であり、実際の患者に対する有効性や安全性は検証されていません。今後はリソソーム機能を標的とした治療法の開発や臨床応用を目指して研究を発展させる予定です。
なお、本研究では、京都大学医の倫理委員会の承認のもと、患者から十分な説明と同意を得て樹立されたiPS細胞を使用しており、倫理指針に則って研究を実施しました。

4.研究プロジェクトについて

本研究は、小野医学研究財団研究助成(池田華子)、武田科学振興財団研究助成(池田華子)、日本失明予防協会研究助成(池田華子)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JSPS科研費:20K18341〔井上由美〕、16K11285、19K09991、25K12831〔池田華子〕、15H05897、15H05898、20H00495〔有田誠〕)、科学技術振興機構(JST)ERATO「有田リピドームアトラスプロジェクト」(JPMJER2101、有田誠)、文部科学省 卓越研究員事業(Leading Initiative for Excellent Young Researchers:LEADER)(池田華子)、および日本医療研究開発機構(AMED)「疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究」(課題番号:15652070、浅香勲)の支援を受けて実施されました。

<研究者のコメント>

Malattia Leventineseは非常に希少な疾患であり、患者数も限られているため、その病態研究は容易ではありません。本研究では患者さん由来のiPS細胞を用いることで、これまで十分に分からなかった病気の仕組みを再現し、リソソーム機能障害という新たな病態の中心的役割を明らかにすることができました。希少疾患の研究から得られた知見が、加齢黄斑変性をはじめとするより多くの患者さんが罹患する網膜疾患の理解や新規治療法の開発につながることを期待しています。

<論文タイトルと著者>

タイトル:Restoration of impaired lysosomal function mitigates drusen formation and cell death in Malattia Leventinese
著  者:井上由美、池田華子、畑匡侑、飯田悠人、古田敬子、浅香勲、有田誠、辻川明孝
掲 載 誌:JCI Insight    DOI:10.1172/jci.insight.194102
 

研究に関するお問い合わせ先>

池田 華子(いけだ はなこ)

大阪医科薬科大学医学部眼科学教室・特務教授、京都大学大学院医学研究科・客員研究員

TEL090-8572-1856

E-mailhanako.ikedaompu.ac.jp, hanakoi@kuhp.kyoto-u.ac.jp

 

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