Ⅰ. 事業計画
1.はじめに
令和5年(2023年)度の世界経済は、地域間紛争の拡大・長期化に伴う物流の混乱や資源獲得の困難化などによる物価の上昇、金利の高止まり等により不安定な状況が続いています。日本経済も、コロナ禍からの脱却が進み賃金や物価が上昇し始め、緩やかな回復傾向にあるものの、海外の経済情勢による下振れリスクは拭えず、依然先行き不透明な状況にあります。また、少子化に伴い入学者定員割れが続く大学の増加、働き方改革の推進に伴う労働力不足、人件費の高騰など本法人を取り巻く環境は厳しさを増しています。さらに令和6年(2024年)1月1日に発生した能登半島地震では、あらためて自然災害への備えの重要さを認識させられました。
このような環境下にあって、本法人では新築した病院新本館A棟と救命救急センターが順調に稼働しています。また本大学では、大学統合3年目を迎え、多職種連携教育を充実しつつ、統合後初の対面形式による新入生合同研修の開催、大幅に規制を緩和した入学式や対面授業の再開が図られ、コロナ以前の活気が戻ってきました。高槻中学校・高等学校では、男女共学1期生が卒業し、「最優の進学校」として高い進学実績を挙げると共に、引き続き大阪府下私立中学校志願者数1位を維持しています。
令和6年(2024年)度は、現行の中(長)期計画の完成年度である令和7年(2025年)度に向けての総仕上げを行う年度であり、これまでの取り組みを検証しながら事業を確実に進めていく必要があります。本法人としては、私立学校法改正の趣旨を踏まえ、寄附行為の変更や関連する規則等の整備を行い、効率的で公正・安定的なガバナンス体制の構築を進めてまいります。施設整備では、病院新本館B棟の建築、第1研究館の建築など耐震化を加速させるとともに将来に向け東キャンパスの用地整備などを行います。大学病院では、患者さんや医療従事者に優しい「温かい病院づくり」を進め、我が国の医学教育・研究の維持発展と地域ニーズに応じた診療の確保を目的とした「大学病院の改革プラン」を大学・法人と一体で策定し進めてまいります。また大学では、三学部とも改訂モデル・コア・カリキュラムに対応した新カリキュラム、多様な入試制度などの実施、各種センターの整備を行います。研究面では教員個々の研究を支援すると共にBNCTをはじめとする研究所の活動を促進します。高槻中学校・高等学校では、グローバル教育の推進を引き続き図りながら、徳育教育や高大接続の推進などにも注力し、人物育成型の「最優の進学校」を目指します。
本法人は、今年度も堅実/スマート経営を行いつつ、Super Smart教育・研究・医療を実践し、さらなる成長を図ってまいります。
2.主たる事業項目
[1]組織、人事、施設整備、財務・募金推進等に関する取り組み
(1)組織
・法制度改正等への対応
私立学校法改正法施行への対応
大学設置基準改正への対応
・効率的・効果的な事務組織の構築
事業所間異動の活発化
・学部・学科の編成見直し
新学部の設置検討
・各機構による学部連環体制の推進
機構運営体制の定着化
・各種センター整備
①保健管理センター再編、②図書館の情報センターへの移行
(2)人事
・医師の働き方改革の実践
医師の労働時間短縮計画の遂行
・採用競争力の強化
募集活動の強化
・人事制度の見直し
退職金制度見直しの検討
・教員組織体制の強化
大学院設置基準改正への対応
(3)施設整備
・耐震化率100%計画の達成に向けて
①第1研究館建築、②病院6号館
・その他整備
①木造管理棟、②旧保育所等
・キャンパス整備構想
①東キャンパスの用地整備、②薬学部移転基本構想、③本部キャンパス
再編(総合研究棟)
・病院新本館B棟建築
B棟開院に向けた建築の推進および院内体制の整備
・キャンパス全体の省エネルギー活動強化
エネルギー供給系統の整理
(4)財務・募金推進
・外部資金獲得の強化
補助金、受託事業収入等
・財政基盤の強化
支出の効率化
・募金事業の強化
寄付金募集の推進
(5)ICT ・ DX
・情報セキュリティ対策強化
①研修・訓練の充実、②ADサーバの統合
・ICT環境整備と利活用推進
スマートフォン活用
・電子カルテ更改対応
電子カルテ更改(2027年1月1日)への準備
・教学システム(LMS)更改準備
①各種証明書の電子化、②教学システム(LMS)利用の拡大
・教学サポートシステムの充実
①能力の見える化対応、②学びの多様化対応
(6)リスクマネジメントとコンプライアンス
・リスクマネジメント委員会の活性化
リスク評価とリスク対応の深化
・危機対応
BCPの見直し
・コンプライアンスの一層の推進
(7)社会貢献・ SDGs
・法人内外における社会貢献・SDGs活動の活性化
自治体、民間企業、NPO等との連携強化
(8)広 報
①病院新本館グランドオープンに向けた広報の検討、②ブランディングの見直し、③自治体との連携
[2]教育・研究に関する取り組み
(1)大阪医科薬科大学
1)内部質保証(IR含む)
・教員・学生ポートフォリオの活用
教員・学生ポートフォリオの整備
・内部質保証の推進
内部質保証体制の構築と運用
・IR機能の拡充
①IR機能の内外への発信、②多様性への対応、③研究IRの確立
2)教学
▶ 学部
・教育の充実(大学設置基準改正への対応を含む)
①三つのポリシーに基づいた教学マネジメントの確立と検証
②国家試験:合格率の高位安定
③モデル・コア・カリキュラム:改訂への対応
④多職種連携教育の推進
⑤医学部共用試験:CBT、Pre-CC OSCEの公的化対応
⑥臨床実習:臨床及び臨地実習の推進
⑦データサイエンス:カリキュラムの編成の高度化と自己点検・評価
⑧情報関連科目の強化及びガイダンスの充実
⑨入学前教育導入
⑩FD活動の充実
⑪学部間学生の交流活発化
⑫リサーチマインドの醸成
・学生生活支援の充実
①厚生補導の促進
②新入生導入教育
③人間形成に向けた諸策の推進
④経済的支援の充実
⑤修学機会の確保
・国際化の推進
①国際化に向けたカリキュラム整備
②協定校との交流プログラム促進
③3学部共通科目の充実
④人材交流促進
・看護学部周年記念式典
看護学部周年記念式典実施準備
▶キャリア支援
・人材育成・活性化
看護師の確保と人材育成
・薬学生涯学習センターの機能強化
薬剤師リカレント教育の推進とキャリアアップ支援
・看護キャリアサポートセンターの運営強化
①広報強化
②教育研修の質担保
③関係諸機関との連携構築
▶ 大学院
・体制の強化
①大学院設置基準改正への対応
②学位論文関連データの管理
・大学院教育(医学研究科)
①社会人大学院生の研究の改善
②社会貢献
③リカレント教育
④学生生活・研究支援の充実
・大学院教育(薬学研究科)
①志願者確保の強化
②リカレント教育
③グローバル教育の展開
④社会人学生の学びの環境整備
・大学院教育(看護学研究科)
①カリキュラムの点検
②志願者確保と広報活動の強化
③学生生活支援の充実
3)DX(教学)<再掲>
・教学システム(LMS)更改準備
・その他
4)組織(教学)<再掲>
・センター整備
5)入試制度
・入学試験制度改革
入試制度の多様化
6)研究
・研究推進
①研究環境整備の推進、②研究・学術交流活動の推進、③海外研究者との国際共同研究の推進、④研究施設の共用化対応の推進、⑤研究データマネジメントの推進
・研究支援
①外部資金獲得強化、②研究公正化推進の徹底、③研究者のサポート体制の強化、④LDセンターの充実
・研究機関
BNCT共同臨床研究所、小児高次脳機能研究所、薬用植物園の充実
(2) 高槻中学校・高槻高等学校
・教育の充実
①高大接続の強化、②グローバル教育充実、③「最優の進学校」を目指す、
進路指導の充実、④徳育教育の推進、⑤SSH 3期目継続
[3]診療
(1)超スマート医療の実現DX
①電子化と業務効率の推進、②オンライン化とペーパーレス化の推進、③電子カルテ更改準備 <再掲>
(2)診療体制の充実
①診療組織の活性化、②第三者評価受審、③人材活用
(3)経営効率の促進
①支出抑制、②広報強化、③連携の推進
(4)患者増加促進
「温かい大学病院づくり」の推進
(5)人材確保・育成・活性化
①先端技術人材育成、②看護師の確保と人材育成、③医師の働き方改革の推進、④多職種連携の推進
(6)病院新本館B棟建築<再掲>
①B棟開院に向けた建築の推進及び院内体制の整備
(7)BNCTの診療体制充実
①BNCTの強化、②PET診療の増加
[4]地域連携
(1)三島南病院の充実 ~ケアミックス病院としての連携強化〜
①安定的経営体質の構築、②介護事業との連携
(2)健康科学クリニック運営の安定化
健康科学クリニックでの健診収入の維持と高質な検査人員体制の確保
(3)地域医療連携ネットワークの推進、地域包括ケアシステム推進
地域連携の基盤構築、医療・介護の連携強化
(4)訪問看護ステーション運営の安定化、教育機関としての役割発揮
①人材確保・人材活用・人材育成、②経営の安定化、③質の高い訪問看護、リハビリの提供、④教育機関としての役割発揮、教育ステーション事業、⑤地域連携強化、⑥地域貢献
Ⅱ.予算編成方針と主な支出
[1]予算編成の基本方針
1) 超スマート医療と業務効率化の実践、及びブランド力・競争力の強化(ICT、DX化、医療機器等)に予算を重点配分する。
2)大学設置基準等の改正に伴う教育体制強化に予算を配分する。
3)既存の経費を見直し、経常費予算削減により、新規予算の原資を捻出する。
〈基本的事項〉
・高度先進医療の推進と病院新本館領域の高稼働による医療収入の一層の増加を図る。
・外部資金(各種補助金、設備加算等)の獲得並びに寄付金活動を強化する。
Ⅲ.各部門の予算概要
1.大阪医科薬科大学(前年予算比)
令和5年(2023年)度に病院新本館B棟の建設が始まり、同時に第1研究館の建築プロジェクトもスタートしました。
令和6年(2024年)度にはこれらの建築代金の支払いが発生することに加え、本部キャンパスの拡張を見据えた土地の取得に充てるため、施設関係支出として8,046百万円を予算計上しました。また、医学部・薬学部・看護学部の教務システムを統合することや医師の働き方改革に関係する文部科学省の「高度医療人材養成事業(教育環境整備)」採択による最先端の医療機器の整備などのため、設備関係支出として1,891百万円を予算計上しました。
[1]教育活動収支
①学生生徒等納付金
医学部の学納金引き下げの学年進行等により、48百万円の減額としました。
②手数料
前年度と同程度としました。
③寄付金
大口の寄付金獲得を織り込み51百万円の増額としました。
④経常費等補助金
新型コロナ関係補助金の廃止と救命救急センター運営補助金の減額により875百万円の減額としました。
⑤付随事業収入
日本医療開発機構(AMED)からの受託研究費の獲得額増加により27百万円の増額としました。
⑥医療収入
令和6年度は診療報酬改定年度にあたり、主に賃上げを目的として+0.88%の診療報酬引き上げを予定しています。大学病院では、診療報酬改定の反映と足元の入院単価及び外来単価の上昇等により2,353百万円の増額としました。関西BNCT共同医療センターは治療の有効性が認められたことによる治療件数の増加が継続することを想定 し175百万円の増額としました。三島南病院は11百万円の減額、健康科学クリニックは52百万円の減額とし、医療収入全体では2,467百万円の増額としました。
⑦雑収入
退職金財団交付金収入の減少等により、34百万円の減額としました。
⑧人件費
実績見込をベースにした定期昇給に加え、賃上げを目的とした診療報酬改定に対応するための処遇改善を加味し745百万円の増額としました。
⑨教育研究経費
教育研究経費は885百万円増額の29,132百万円としました。医療収入の増加に伴い医療材料費を1,258百万円増額しました。減価償却額は293百万円の減額としました。
⑩管理経費
管理経費は88百万円増額し2,596百万円としました。
⑪教育活動収支差額
医療収入は増加しますが、経常費等補助金の減少や人件費の増加の影響が大きく、129百万円減少の681百万円となりました。
[2] 教育活動外収支及び経常収支差額
借入金の増加並びに日本銀行の金融政策変更に伴う支払利息の増加により、教育活動外収支差額は20百万円の減額としました。結果、経常収支差額は149百万円減少の615百万円となりました。
[3] 特別収支及び基本金組入前当年度収支差額
特別収支差額は、986百万円の増額としました。その他特別収入には、第1研究館関係の補助金269百万円や「高度医療人材養成事業(教育環境整備)」補助金249百万円及び大学病院の災害拠点病院整備事業補助金184百万円を始めとした施設設備関係補助金を1,133百万円計上しました。なお、物価高騰や更なる賃金引上げに伴う支出増加に備え、予備費は100百万円増額しました。結果として、基本金組入前当年度収支差額は1,235百万円となりました。
[4] 資金収支
病院新本館B棟及び第1研究館の建築代金支払いのため借入金等収入として5,600百万円を計上するとともに、施設関係支出を6,400百万円増額の8,046百万円、設備関係支出を710百万円増額の1,891百万円としました。結果、翌年度繰越支払資金は2,795百万円の減少の12,706百万円となりました。
2.高槻中学校・高槻高等学校(前年予算比)
[1] 教育活動収支
①学生生徒等納付金
授業料は大阪府授業料完全無償化の開始により、74百万円の減額としました。ただし、授業料減額相当額は大阪府授業料支援補助金により補填されました。
②手数料
入学検定料は受験者数増加の実績を反映し3百万円の増額としました。
③寄付金
足元実績から4百万円の減額としました。
④経常費等補助金
大阪府授業料完全無償化の開始による授業料減額の補填として、授業料支援補助金を71百万円の増額、大阪府経常費補助金を12百万円の増額としました。
⑤付随事業・収益事業収入
前年度と同程度としました。
⑥雑収入
前年度と同程度としました。
⑦人件費
人員構成から試算し、教員人件費は3百万円の増額、職員人件費は8百万円の減額としました。
⑧教育研究経費
大阪府授業料完全無償化の開始により、授業料学校負担額である就学支援費を5百万円増額とし、また、外注費の増加など実績を反映し、委託費を10百万円増額としました。
⑨管理経費
就業管理システムの導入により、委託費は2百万円の増額としました。
⑩教育活動収支差額
経常費等補助金が増加する一方で、教育研究経費、管理経費も増加することにより、教育活動収支差額は8百万円減額の83百万円となりました。
[2] 教育活動外収支及び経常収支差額
利息収入の増加により教育活動外収支差額は5百万円の増額としました。結果、経常収支差額は3百万円減額の110百万円となりました。
[3] 特別収支及び基本金組入前当年度収支差額
特別収支は前年と同程度とし、予備費は前年と同額の20百万円を計上し、基本金組入前当年度収支差額は90百万円となりました。
[4] 資金収支
施設関係支出の増加や、施設設備拡充引当特定資産を300百万円積み増すことにより、翌年度繰越支払資金は26百万円減額の910百万円となりました。
3.法人全体の予算概要
事業活動収支予算の教育活動収入は59,762百万円、教育活動支出は58,998百万円となり、教育活動収支差額は764百万円となりました。基本金組入前当年度収支差額は1,325百万円、基本金組入後の当年度収支差額は3,842百万円の支出超過となる予算編成です。
なお、資金収支予算は、収入の部、支出の部ともに83,945百万円となり、翌年度繰越支払資金は13,615百万円を確保する見込みです。