活動事例紹介

細胞外小胞を活用した研究による健康寿命の促進【医学部】

細胞が周囲に放出する小胞物質として細胞外小胞(Extracellular vesicles: EVs)の存在が知られています。EVsの中には様々な情報伝達物質が含まれており、特にがん細胞が細胞間のコミュニケーションツールとして利用するとされています。EVsの研究は培養細胞に始まり、近年では血液などの体液を用いた研究へと発展しています。我々は少し視点を変えEVsの研究に取り組んでいます。例えば、粘調度が高く抽出が困難と考えられていた胃液に着目し、胃がん患者さんの胃液中のEVsに関する研究を実施してきました。また、植物にもEVsの存在が確認されており、普段食する様々な食物にもEVsが含まれていることが想定されます。我々の研究からも一部の野菜や果物中にEVsが含まれることが明らかになっており、摂取した後の挙動を解析することが必要ではありますが、食物中のEVsが健康リスクの緩和につながることが示唆されると考えています。

胃がん患者さんの胃液から抽出した細胞外小胞の走査電子顕微鏡写真

また、現在、主に進めているEVsの研究として、生体組織由来のEVsに関する研究が挙げられます。この研究ではこれまで頻用されている実験用に樹立された培養細胞ではなく、実際のがん組織からEVsを抽出する方法を用いて、組織由来のEVsに関する形態学的特徴や機能を見出し、がんの診断やがん組織由来EVsを標的にした創薬開発などに取り組んでいます。研究を進めるにあたり、実際のがん組織の利用が研究の中核を担うことになりますが、手術を中心とした臨床で得られる資料を円滑に研究に利用するために施設内のインフラ整備を兼ねてバイオバンクを設置し、効率的な資源活用に取り組んでいます。組織由来EVsの形態学的特徴を明らかにする場面では、電子顕微鏡を用いた実験などを積極的に実施しています。また、研究成果を臨床に還元するためには、がん組織由来EVsの機能を解明し治療の標的とする遺伝子(分子)を同定することが必要です。そのために、次世代シーケンサーを活用した網羅的な遺伝子解析にも力を入れています。この様に高度な技術を要する実験や、バイオインフォマティクスを利用する先進的な解析の実施する過程で、医学生や技術員の方々を含んだ若手研究者の育成や職業的スキルの向上にもつながる様に取り組みを進めています。
このプロジェクトを通じて、健康的な生活の一助になるイノベーティブかつ技術革新の基盤となる成果の産出を目指したいと思います。

細胞外小胞の研究プロジェクトに関する概念図