1. ホーム
  2. 広報
  3. 産学官連携による開発製品 3D 積層造形法による下顎骨再建用固定プレートを上市
2022年9月28日
大阪医科薬科大学
中部大学
大阪冶金興業株式会社
帝人株式会社

交通事故や病気の治療に伴って欠損した骨を再建する手術では、欠損部の形に合わせて加工したチタンなどの金属製の人工骨が用いられています。しかし、平坦な金属板を手作業でもとの骨と同じ複雑な形状に加工する手間がかかることや、はめ込んだ後で異物として体内で拒絶反応を起こさせない生体適合性に加え、自然に生体骨が成長するための表面処理が必要です。
再建手術時の手間と医療費を大幅に減らすため、大阪医科薬科大学(大阪府高槻市)、中部大学(愛知県春日井市)、株式会社モリタ(大阪府吹田市)および大阪冶金興業株式会社(大阪市東淀川区)は共同で、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、「AMED」)の支援を受け、3D積層造形技術によりはめ込む顎骨の形状に合わせて造形し、骨組織親和性を高める独自の表面処理を施した金属チタンの人工骨を開発しました。
このたび開発した人工骨は、2022年3月に開発を終えたのち、厚生労働省から薬事承認を受け、7月には保険収載を実現しました。そして、2022年8月に下顎骨欠損の再建治療に使用される患者適合型体内固定用プレートとして、「コスモフィックス」の製品名で、帝人株式会社のグループ会社で医療機器の開発と製造販売を手掛けている帝人メ ディカルテクノロジー株式会社(大阪市北区)から発売されました。
今後は下顎骨を含む頭蓋骨にとどまらず、他の部分の人工骨事業も展開し、体の様々な部位における再建医療に関わることを目指しています。
発売に至る開発経緯は以下の通りです。

(1) 大学間共同基礎研究からAMED事業への移行

大阪医科薬科大学医学部の中島 世市郎講師は、中部大学生命健康科学部の山口 誠二准教授らが開発した生体活性処理を施したチタンが骨と結合することや、骨欠損が早期に修復される現象を、動物試験で確認しました(2015年)。この現象を口腔外科領域に応用展開し実用化を加速する方策を検討する中、岡山大学病院・新医療研究開発センターからAMEDの医工連携事業化推進事業への応募が提案され、実行に移しました。その結果、2018年度の事業テーマ(以下、AMED事業)として採択され、2018~2021年にわたり実用化に向けた開発を行ってきました。

(2) AMED事業の概要

頭頚部領域において外傷、炎症、腫瘍などの手術により顎骨の欠損が生じた場合、著しい顔貌の変化や機能障害をきたすため、顎骨再建術が施行されます。現在行われている顎骨再建術は、体内固定用プレートを骨格とし、患者様自身の腓骨や肩甲骨などの血管柄付き筋骨皮弁を移植するものです。何らかの原因で顎骨再建術を行う患者様は年間で1,200症例以上とされています (日本口腔外科学会 口腔外科疾患調査2021年最終報告書) 。

顎骨再建では、骨格となる体内固定用プレートを顎骨の形態に適合させることが重要です。現在市販されている体内固定用プレートの形状は平坦な直線形であるため、顎骨に適合するよう、手術中に手作業で多くの時間をかけて曲げ加工を行う必要があります。そのため、複雑な形態を有する顔貌の修復に限りがあることや、作業時間が長くなり患者様の負担が大きいこと、体内固定用プレートを複数回屈曲させるため金属強度が低下すること、術者の技量が手術の成否に大きく影響することなどの多くの課題があります。また、顎骨は咀嚼による継続的な振動と強い負荷が掛かるため、顎骨再建後の体内固定用プレートの破折や脱離などの問題も生じています。これらの問題を解決するため、体内固定用プレートが患者様個々の顎骨形態にしっかりと適合し、手術時のプレートの屈曲成形と患部への適合調整が不要で、術者を選ばず、強固に骨と結合する製品が望まれていました。
そこで、レーザーを用いた積層造形法(Selective Laser Melting)により、下顎形状に適合する三次元形状チタンプレートを製作し、それに骨組織親和性を高める生体活性処理を施した新たな体内固定プレートを開発しました。本製品により、手術時のプレートの屈曲成形と患部への適合調整が不要となり、短時間に正確に固定でき、既存の体内固定用プレートを用いる従来法ではなしえなかった機能性と審美性を兼ね揃えた治療を実現します。

(3) AMED事業実施体制

医工連携による開発と事業化を行うため、岡山大学病院・新医療研究開発センターが橋渡しを行い、ものづくり中小企業である大阪冶金興業株式会社、大阪医科薬科大学、中部大学および歯科の販売に精通した株式会社モリタの共同開発体制を構築しました。さらに、アドバイザーとして岡山大学病院なども参画し、体制を整備しました。なお、それぞれの役割は以下の通りです。
  • 大阪冶金興業株式会社 :製品開発・評価、非臨床試験、薬事戦略
  • 大阪医科薬科大学 :非臨床試験、販売戦略
  • 中部大学 :製品開発・評価
  • 岡山大学病院  :非臨床試験計画支援、当局対応支援
  • 株式会社モリタ :市場調査、販売戦略

(4) 製品の概要

  1.  製品の名称は「コスモフィックス」です。
  2. 「コスモフィックス」は純チタン製のプレートと、チタン合金製のスクリューからなる医療機器です。
  3.  患者様の下顎骨の画像データをもとに、大阪冶金興業株式会社の3Dプリンティング技術(積層造形)である選択的レーザー溶融(Selective Laser Melting : SLM)法によりフルカスタムメイドで製造されます。複雑で微細な下顎骨の形状の忠実な再現が可能であるため、手術時の屈曲加工作業は不要で、患部に当てて固定するだけで使用できます。また、曲げによる金属強度低下リスクもなく、術前の顔貌と機能回復を実現することが期待されています。
  4. また、プレートには、本品に使用されるスクリューの固定を補助するため、下顎骨と接触する部分に生体活性処理を施しており、スクリューによる固定力と相まって、従来品に比べて早期に高い安定性の獲得が期待できます。
  • 下顎骨モデルに取付けたコスモフィックス
  • 「コスモフィックス」
以上

当件に関するお問合せ先

<研究に関すること>
中島 世市郎
大阪医科薬科大学医学部 感覚器機能形態医学講座
口腔外科学教室 講師
TEL:072-683-1221
E-mail n4160@ompu.ac.jp
山口 誠二
中部大学 生命健康科学部 生命医科学科 医工学分野 准教授
TEL 0568-51-6420
E-mail sy-esi@isc.chubu.ac.jp

<報道に関すること>
大阪冶金興業株式会社 三木工場 造形・メディカル部門 TEL:(0794)86-1345
大阪医科薬科大学 医学研究支援センター産学官連携推進室 TEL:(072)684-7141
中部大学 学園広報部広報課       TEL:(0568)51-7638
帝人株式会社 コーポレートコミュニケーション部      TEL:(03)3506-4055

※本研究はAMEDの
事業名:医工連携事業化推進事業
研究開発課題名:「下顎骨形状に適合し骨結合能を有する新たなレーザー積層造形チタンデバイスの開発・事業化」
の支援を受けた