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  3. ~統合で消えた旧大学名にちなんで命名〜 魚類で感染抵抗性を制御する新規遺伝子群を発見 -水産業や医療などで、感染制御への応用が期待-
2024年9月30日

大阪医科薬科大学
 

研究のポイント 

  • 機能不明であった遺伝子が淡水魚で感染を抑えていることを発見
  • 遺伝子を持たない個体は、濁った水中で感染症により全滅した
  • 遺伝子は複数の淡水魚で環境に応じてそれぞれ進化していた
ゼブラフィッシュ

研究の概要

大阪医科薬科大学医学部生理学教室の博士課程大学院生である成岡詩織らは、同大学生物学教室、病理学教室、微生物学・感染制御学教室および三重大学、米国Duke大学などと共同で、小型の熱帯魚で医学・生物学の研究に広く用いられるゼブラフィッシュから新規の遺伝子を同定し、omcin5と名付けた。
omcin5は骨格筋が麻痺するゼブラフィッシュ突然変異体を調べる過程で研究チームが注目した遺伝子である。omcin5遺伝子から作られるタンパク質の構造を見ると、細菌との相互作用が示唆されているヒト遺伝子と共通の部分が見られたが、全体構造はかなり違っており、またヒトと違ってゼブラフィッシュのゲノムではこの遺伝子は進化の過程で重複を起こして多数のファミリー遺伝子になっていた。

omcin5遺伝子を機能的に欠損するゼブラフィッシュ突然変異体を調べたところ、感染症に対する抵抗性が劇的に低下しており、濁った水中で飼育するとわずか2日間で死亡に至った。omcin5に類似した遺伝子のゲノム中での増幅は別の淡水魚でも種ごとに独自に起きており、それぞれの生育環境に応じて環境中に住む微生物に対応できるよう進化したものと考えられた。

上の写真は正常なゼブラフィッシュ。普段は浄化装置のついた循環システム内で飼育されているが、水質浄化装置のない静水中に置かれても影響を受けない。これに対して下の写真はomcin5遺伝子を欠損した個体で、静水中では2日以内に感染症を起こして全滅する。

研究の背景

小型熱帯魚であるゼブラフィッシュは医学・生物学のモデル動物として世界的に広く使用されており、大阪医科薬科大学医学部生理学教室では150個以上の水槽で遺伝的に異なるゼブラフィッシュを飼育して研究を行っている。今回発見されたomcin5遺伝子はゼブラフィッシュのゲノム上の狭い領域で10個以上のファミリー遺伝子に増幅しており、また他の淡水魚の中でも種ごとに独自の増幅と分化を遂げていた。

omcin遺伝子産物は現在まで臨床に用いられたことのない物質で、魚類ではこの遺伝子を欠損すると顕著な易感染性を示すことから、例えば魚類の養殖などで有効なツールとなることが期待される。
さらに細菌感染症は、医学的に昔も今も臨床上大きな問題であり、現在の主要な治療手段である抗生物質は抵抗性を持つものが次々と現れることが課題であるため、現行の抗生物質を補完する手段が切望されている。今回淡水魚から単離された抗菌性を担う遺伝子は今まで医学に応用されたことがなく、その抗菌メカニズムはまだ未解明ではあるものの、現在流通している抗生物質とは異なるメカニズムで働いている可能性がある。したがって現行の抗生物質と組み合わせて使うことで耐性を来しにくい感染症治療を行うことが可能となることが期待される。

本研究が社会に与える影響

感染症の対策に用いられる抗生物質は、薬剤耐性菌の出現などが原因で有効性が低下してきており、新規のメカニズムによる抗菌作用を持つ物質の開発が切望されている。omcin5を含む遺伝子群は淡水魚の中で増幅・分化を遂げていることから、それぞれの種が生息する環境で存在する微生物に対応するように進化を遂げたと考えられ、この研究を発展されることで多様な微生物を制御できる物質を単離できる可能性がある。

用語説明

ゼブラフィッシュ: インド原産の熱帯魚。世界中で医学・生物学の研究に活用されている。
突然変異体: ある遺伝子が働かないように改変された生物。
骨格筋: 体を動かすための筋肉。
ファミリー遺伝子: 共通の祖先から別れて進化してきた遺伝子のグループ。
抗生物質: 細菌に対して繁殖を抑えたり死滅させる働きをもつ物質。

特記事項

本研究は、2024年9月30日にHeliyonに掲載されます。
タイトル : A zebrafish gene with sequence similarities to human uromodulin and GP2 displays extensive evolutionary diversification among teleost and confers resistance to bacterial infection
著者名 :Shiori Naruoka, Souhei Sakata, Shigeru Kawabata, Yasuyuki Hashiguchi,
Eriko Daikoku, Shoichi Sakaguchi, Fumiyoshi Okazaki, Kento Yoshikawa,
John F. Rawls, Takashi Nakano, Yoshinobu Hirose, Fumihito Ono
DOI:  https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2024.e37510  
特許出願予定

研究者のコメント 

この研究は、教室のメインテーマである神経系からはだいぶ離れた内容で、いわば他の研究の副産物ともいうべき成果です。ただ予想外の方向に発展を見せたことで意外性のある発見に繋がりました。
最初にこの遺伝子に着目したときには大学名が大阪医科大学 Osaka Medical College だったので omcin と名付けましたが、大学統合によってこの大学名は消えてしまいましたので、今となってはいい記念になりました。新しい学校名はOsaka Medical Pharmaceutical University (OMPU) ですので、今後機会があればこの新大学名にちなんだ遺伝子名なども考えたいと思います。

本件に関するお問い合わせ

研究内容について

大大阪医科薬科大学 医学部 生理学教室
教 授 小野 富三人
Mail: fumihito.ono@ompu.ac.jp
TEL: 072-684-6421

リリースについて

大阪医科薬科大学 総務部 企画・広報課
Mail: hojin-koho@ompu.ac.jp
TEL: 072-684-6817
FAX: 072-684-7100