活動事例紹介

3Dプリンター積層造形技術を応用した
フルカスタムチタンプレートの実用化

チタンは生体に親和性が高い金属で、人工歯根(歯科インプラント)、人工関節(大腿骨や膝関節)の骨接合固定用プレートなど、医療機器として広く使用されています。
口腔外科では、顎の腫瘍、外傷、炎症などで顎の骨を失うことがあります。顎の骨を失うと、顔が変形し、会話や食事ができなくなる不具合が生じ、患者さんのQOLは大きく低下します。これを回復するためには、手術で自分の肩や足の骨を切り取って、顎の形に整形して固定用プレートで修復します。
この手術は、板状のプレートを複雑な形をした顎の骨にピタリと合わせなければならない難しい手技で、経験豊富な外科医でも非常に困難な作業です。プレートの適合が悪いと手術した骨とプレートの隙間から細菌感染やプレート破折が起き、プレートを手術で取り出さなければなりません。こうしたことを少なくするために、骨と適合の良いプレートが必要となります。私たちは3Dプリンター技術の一つである積層造形技術に着目しました。これは患者さんの顎のCTデータを基にデジタル処理を行い、コンピューターで再現して使用するプレートを骨の形態に合わせて自由に造形する技術です。
私たちは、動物実験で十分な精度が得られたことを確認して、患者さんに初めて使用しました。プレートが顎の骨にピッタリ適合することに驚き、臨床応用化への強い手応えを感じることができました。その後、10症例の患者さんに手術を行い、全症例で適合性と安全性を確認できました。同時にAMED事業にも研究が採択され、公的研究助成を受けて研究資金を獲得できました。そして、多くの基礎実験やPMDA面談を繰り返し、2022年5月に薬事承認を得ることができました。9月には、大阪医科薬科大学病院で、国内第一例目のフルカスタムチタンプレートを使った顎の再建手術を行いました。手術時間が大幅に短縮されたことは大きな事業成果だと思います。現在、国内では100症例にこのフルカスタムプレートが使用されています。
産学連携事業の成否は、出口戦略の設定につきます。いい物を造っても販売する企業がなければ、この世に出ることはありません。また販売する企業にも、患者さんと、医師にとってベストなものへ改良し続ける気持ち、まさにサスティナビリティ精神が必要です。SDGsの輪が広がる社会背景の中、こうした医療機器開発の気運が、一層高まることを心より期待しています。

 

2022年5月 薬事承認の時の写真
開発者と大阪冶金興業

国内初症例手術
フルカスタムデザインと手術写真